ストンと入り込んだ。体に染み込んだ。アンダルシアのオリーブの木ノ下で。
財産がないことで拒まれた過去。気が狂いそうに会いたい気持ちを何とか封印して過ごした日々。もがき苦しむ日々を越え、当て付けのように結婚もした、子供も生まれた、それなのに馬に乗れば馬が導く、不可能な道を、破滅の道を進む。
馬は自分自身。どんなにもがいても身体の奥に染み込んだ思いは消せない。
自尊心。お金がない事で拒まれ、傷ついた自尊心。身体を寄せようとして突き放され、壊れた自尊心。男にとって自尊心は一本の柱、最後の砦。
ああ今日はレオナルドがとてもかわいそう。自分勝手な感情の押し付けが感じられないし、花嫁を本当に愛していたんだなあという感覚が伝わってくる。奥さんも子供もいて理不尽なのに、なんてかわいそうなレオナルド。「力ずく?」鞁だって拍車だっていったい誰が付けたんだ?そうして花嫁の感情に振り回される。翻弄される。一度捨てられているのに。
花嫁と花婿が付き合った三年間。花嫁はただひたすら花婿のペースに合わせ、にこやかに、穏やかにお付き合いしてきた。心に燻る激情を封じ込み、あらゆる激しさから遠ざかって。もしかしたらレオナルドのような激しさは破滅を導くと感じていたのかもしれない。およそ真逆に見える人を選んだ、のかも。
そう、本当に本心から花嫁は平凡な結婚もしたかったのかもしれない。でも、体にくすぶる情熱は、灼熱の太陽と乾いた土のアンダルシアでは隠しておくことのできないもの。今でなくても、いずれメッキははがれ、熱情に狩られた行動に出てしまったことでしょう。その時もまた言い訳するの??いいえ、できない。だって、きっと結婚した花婿はいつもにこやかなだけの男ではないことがわかるだろうから。内面には冷たい表情も合わせ持つ、辛い過去にいじめられている母の重圧に耐えてきた男だということがわかるから。
男と言えば、花嫁の父。他の男はみんな死んでるのに、花嫁の父は生きている。死んだ妻には愛されず、荒れ地で生き抜く男。1人娘が嫁ぐというのに、かなりあっさりしてる。アンダルシアで生き抜くには、激情に突き動かされない必要があるのかもしれないな。
押さえ込まれた感情が剥けて、むき出しの感情がぶつかり合った時、ナイフは体に入り込み、月の渇きがいやされた。運命なのか、血の宿命なのか、最初からわかっているのか黒い男は待ち続けた。その時が来るのを待ち続けた。
残された花嫁は死を望んでいる傍ら病的なまでに自分の潔癖にこだわる。何も悪いことはしていない。ただ何かに突き動かされて一緒に逃げただけ。それだけ。やましいことは何もないということ理解してもらった上で死にたいと。(花婿の母のセリフにあったように、身を投げるようなタマじゃない)殺してくれと懇願する。何も悪いことはしていないけど、殺せと。そうして周りを巻き込み無意識(意識的?)に翻弄しようとしている。かつてレオナルドを翻弄したように。自分の言い訳だけを口にする。自分は悪くない。
やっぱりファム・ファタルかな、と。再認識してしまう。
血、遺伝はあなどれない。純血種の中でもラインブリーディングされている、数代さかのぼると同じ犬が数頭出てくるような血の濃い犬はその親をみれば子がわかる。誰にも教えられないのに同じ行動をする。顔つきや体型は言うに及ばず、性格がそっくりなのだ。誰にも教わっていないのに、特殊なクセまで似ている。水の飲みかた、エサの食べ方、目配せの仕方まで同じなのだ。一緒に暮らしているからではなく、離れていてもそれは出てくる。血が濃いというのはそういうこと。
この舞台をみる時はいつも、腕組みして怖い顔して観てしまう。にらみつけてる。どうしてかな?Pepperさんが「舞台からの強いエネルギーを防御しているのでは」と言ってくださり、かなり納得。どうやら舞台と常に対峙してしまっているのかもしれない。腕組みした腕をさらにぎゅーっと握りしめている瞬間もある。
眉間の縦じわが増えるなあ…。
でも、今日の舞台ですっかりトリコにされちゃったから、もっともっと観たい気持ちになってきました。あと1回かあ、ちょっと寂しいな。