心身ともに《豊》な《未來》を!

アラカンからの挑戦

カリギュラ は 心に沁み込む深い話


7日に初日を迎えたカリギュラ。チケットは秒速で完売。もちろん、先行で落ち、さらなる先行で落ち、手に入れるのが困難だった幻(?)のチケット。腹をくくってヤフオクで勝負。なんとか恐ろしい値段にならずに入手。ドキドキの開幕を待った。

プチマロンを過小評価していた自分を恥じた。バットボーイの初演を見て衝撃を受けたあの、衝撃が再来。

以下ネタばれあるので畳みます。





蜷川さんの舞台、コクーンであるときは立ち見の方も多数あり。本日(10日マチネ)も立ち見の方はいっぱいだった。なのに、一階後方二列目の私の隣の通路側の席は空席。誰さ、当日来ないのは!なんともったいない。で、よく目を凝らしてみるとあちこちにちらほら空席あり。立ち見の人、途中座りたいと思ったでしょう*1


幕が明けてプチマロン演じるカリギュラが登場。うわさにたがわぬ際どい衣装。それにも増して相当鍛えただろうと思われる肉体。どうやったらこんなにきれいな筋肉がつくのだろう。きっと特別メニューをこなしたにちがいない、とかなんとか思いつつがん見で鑑賞。そういえば「オセロー」の主演の吉田鋼太郎さんが頑張って作った肉体もすごかった。あれと同じメニューかしらん…。


小栗くん、君はものすごくたくさんの引き出しを持つ人なんだね。私は狂気の人を見事に演じる人に否応もなく魅かれてしまうけど、今回のカリギュラの目まぐるしく変化する、一秒も同じ所にとどまっていない感情をくるくると、表情細かく演じてましたね。セリフの量たるや人間業とは思えないほどなのに、一度もかまずに(たぶん)カリギュラの魅力がどんどん放たれる。


今回の演出にも拍手だわ。あの時代の舞台装置としては近未来的な色彩と鏡とライトで作られた部屋。カリギュラの思考の痛々しさを表現する、めいっぱいぎりぎりの演出。衣装。思わず観客が笑ってしまう道化の雰囲気。時々かかるロックな音楽。


プチマロンがどんなに際どい衣装で出てきても、それが却って痛々しく、悲しく、心に突き刺さる。その衣装が道化であればあるほどに、見ているものの心を揺さぶる。作品の主題が重くのしかかる。それにしても深い演技だ。魂を揺さぶる演技だ。


終わってしばらくぼーっとしてしまった。涙が出てしまった。カリギュラの感情に翻弄されて、不条理になぐられて、カリギュラと一緒に死んでしまった。カリギュラとともに舞台を進むとは絶対にあり得ないことなのに、気がつくとその論理のただなかにいた。演出と役者の勝ちだな、これは。


細かく言えば、「お気に召すまま」で女性役をやっていた月川くんの演技にも注目していたのに、かなりがっかりさせられたり、若村真由美さんが数回セリフを噛んだのがばればれだったり…はあるものの、完全にプチマロンのペースにはめられてしまった気がする。


ケレア役の長谷川博己さんがちょっとユッキー的な感じでナイスな人でした。パンクなカリギュラと蜷川さんが言うように、この方の髪型もパンクな感じ。そうか、そうだったのね。知性と理性と嘘と本人は俗物とは一線を画しているつもりだけど、結局俗物なケレア。この人の存在感があってこそ、後半のカリギュラの魅力が強まる。とても大切な役。


カリギュラお付きのエリコンは、タイタスアンドロニカスでも目を引いていた横田栄司さんが演じた。今回も舞台の引き締め的存在であり、出てくるとぱーっと目を引いてしまうオーラがあった。カリギュラの理解者であり、自由な奴隷であり、信奉者であるエリコンを見事に演じていた。ブラボー、そう云いたかった。


もう一人大切な人。カリギュラの心の奥深くでの支えとなっていたシピオンを演じた勝地涼くん。髪型にはちょっと文句付けたかったけど、繊細でかつ本当は大胆な心の表現を見事に演じていた。プチマロンとの二人だけのからみの演出はしびれてしまった。溜息が出てしまった。「リリイシュシュのすべて」で見かけてから数年、本当によい役者になったねー。


いやあ、それにしてもすごいな。表現力がなさすぎてあの感動を伝えられない。小栗旬圧巻の舞台ですね。タイタスアンドロニカスのエンロンとは明らかに違うんだけど、どこか似ていて、それを超越していて、心に突き刺さる表現があった。


あれをマチ・ソワでやるんですか???バットボーイの時も信じられなかったけど、今回はさらに信じられない。まだ開幕三日目だからいいだろうけど、どんどん瘠せていってしまうのかな、あれだけの運動量だと。


これは多くの人に見てほしい舞台だと思うのに、私も絶対に今回しか見られないと思うと悲しい。これ以上はもう無理だもの。無理。


蜷川さんの舞台はどういうわけか良席がオークションに出回ってません??最初から何倍もの値段で取引されているように思います。それが悔しい。


あと、グッズの質が本当に悪いねー。稼ぎ場所かもしれないけど、あざといというか、やらしいというか…。これだけ儲かってるんだからもっと質のいい、自慢できるようなTシャツとか作って下さいよ。「お気に召すまま」の時に買ったTシャツ、2500円も払ったのに、たぶん元手は500円もしてないと思う感じ。薄っぺらで着ると透けて見えちゃうようなダサさ。今回出ていたTシャツ、結局買ってしまったけど、あれで3500円はないんじゃない???生地も悪いし、プリントにもお金はかかってない。暴利なグッズだけはなんだか頭にきちゃうのよねー*2


あー、腑抜け状態。もう一回見たいなあ、見たいなあ、見たいなあ。無理、無理、無理。自分の限界を超越してる、無理。


カリギュラの暴走を止められなかった大人たちの弱さとずるさと惨めさと悲惨。ゆえに深く傷ついていく、研ぎ澄まされた感性を持つカリギュラ


今日はプチマロンにノックアウトされました。少しでも君の演技にケチつけた過去を消したいと思います。目まぐるしく変わる表情が目に焼き付いて離れない。哀れなカリギュラ、ひどいヤツだけど憎めない。愛おしいけど不条理すぎて理解を超えている。


私の中でかなりベストな位置を占めた舞台でした。どうもありがとう。

*1:上演時間は休憩込で3時間20分

*2:って買わなければいいじゃん!!!馬鹿だよねー私