心身ともに《豊》な《未來》を!

アラカンからの挑戦

ディア・ドクター 西川ワールド堪能

ずいぶん難しい問題をおとぎの国のような感覚で映像化しちゃうもんだ!としきりに感心してしまった。うまいなあ〜ほんとうに。


「ゆれる」の時にも役者の微妙な表現とか映像のこだわり方なんかにすっかりやられちゃったクチですけど、今回もレトロちっくな映し方による、ちょっと現実じゃないんじゃない的なスタンスで最も難しい問題に切り込んでくるやり方にやられましたw


ディア・ドクター、ただいま公開中。以下ネタバレ大有りなので、まだ観ていない人はあんまり読まない方がいいと思います。


長いので畳みます


なにしろあまりにも田舎的な風景で都会から切り離されていて現実味がない田舎の村が舞台だし、新米の診療補助の先生(映太)がやってきた感じも少し前の時代の日本か?と思わせるタイムスリップしちゃった気分にさせれて、すっかり最初から西川美和監督の空気に飲まれてしまった。


どういう人が本当のお医者さんなの?医療ってなんだろう?


人の生きていく場所、それぞれで要求される医療。死にそうなおじいちゃんのまわりには親戚一同雁首そろえて死期を待つ。心肺機能停止かと思われた時にもちろん手順通りに蘇生を試みようとする映太に対し「ありがとうございました。もうこれで結構です。」と言う家族。これで寿命です、もう延命しないでください、という無言の声が聞こえる。


その一方で設備の整った医療施設で、動くこともままならず独りぼっちで延命治療される人たちもいる。


本当に望まれる医療とは?必要な医療とは?そんな難しいテーマを巧みに笑いに包みながら映像は進んでいく。


物語は八千草薫演じる、医療最先端で頑張る娘を持つ母が、体調を崩しつつも娘には迷惑をかけたくない、亡き夫のような機械に囲まれた最後は迎えたくないという気持ちを受け止めた村の医者(鶴瓶)とのやり取りが柱となって進んでいく。


孤独もテーマだね。


映太の役割が潤滑剤となっていると思った。医大を出て医療の最先端の方向を向いていた医師が、突然なんの因果かとてつもない田舎に飛ばされて、日々の暮らしの中での生と死、求められる医療のあり方なんかにぶつかるわけで、映太の口から、映太の表情からは率直な言葉が次々と放たれる。


しかし、信頼しきっていた田舎の先生は偽物だった。あんなに皆から慕われて、有り難がられて一生懸命向き合ってきた先生は偽物だった。その偽物医者からほとばしる言葉の応酬もまた真なり。


先生が消えた後、捜索をする刑事にそれまで先生と密接に関わった人たちがそれぞれに放つ言葉。これがまたいいんだなあ。


ツボは香川照之演じる製薬会社の社員が刑事に対して体を張って見せる言葉。なぜ鶴瓶が偽医者を続けてしまったのだろうか、という問いに答える形で放たれる。思わず手を差し伸べる、その行為そのものだという事だよね。うまいな、西川監督。


頭が混乱している診療補助の先生(映太)。刑事に聞かれて自分を保護するような言葉しか出てこないけど、ものすごく深いよね、あのシーン。そして後日、たぶん自分ちの病院でおじいさんの患者さんを前に見せる清々しい笑顔、それこそが映太の答えなんだなって思った。


そして感動(?)のラストはもうおとぎの国。西川ワールドにはめられた2時間でした〜。


劇場がね、混んでました。かなり年配の方でいっぱいでした。あの映画館がこんなに混むなんて!とびっくり(笑)所々で笑い声が起きて、いい感じの雰囲気でした。